井沢元彦著「お金の日本史」読みました。
井沢さんは、「逆説日本史」シリーズで有名な方ですが、
今回はじめて読んでみました。
本書は、夕刊フジに連載された記事をもとに作られているらしいので、
誰にでも読みやすい書き方になっていると思います。
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本書を読む上での注意点をいくつか書いておきます。
まず、本書は2020年に出版されたものなのですが、
その年の大河ドラマとか、時事ネタが取り込まれており、
読むならいますぐが良いと思います。
たぶん、あと何年か経つと、
「あれ? これ、なんの話?」となりそうな話題が
いくつかあります。
また、わたしは歴史に詳しくないので分かりませんでしたが、
書きぶりから推測すると、おそらく歴史学の
一般的な見方で書かれている本ではないようです。
よって、この本をもとに「**って、**なんだよね」というと、
この本を読んでいない方とは話が合わなくなる恐れがありますので、
そこは注意した方がいいと思いました。
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さて、注意点はそれくらいにして、良かったところを書いておきます。
議論の展開が面白くて、あまり歴史に詳しくないわたしでも、
最後まで読めました。
現代的な事例を出してくれているので、分かりやすいです。
たとえば、室町幕府末期に、地方の大名が関所を勝手に設けたことについて、
「国道一号線が自分の市内を通るからと言って、市長が勝手に料金所を設けて通行料を取るようなものだ」(p.105)
といった感じで説明されており、現代的な感覚で、想像がしやすいです。
ことばがやや荒っぽいところもありますから、
そこが好きじゃないひとは一定数いるかもしれません。
特に本書後半では、朱子学を滅多切りにしていくので、
途中から朱子学が可愛そうになってきます。
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さてその朱子学についてですが、
井沢さんの書き方は確かにアレですが、
言っている内容自体の理屈は通っています。
わたしは、ジェイン・ジェイコブズという人の
「市場の倫理 統治の倫理」という本で読んだのですが、
たしかに、市場経済における倫理観と、統治における倫理観は違うものです。
これを混同すると、頭がこんがらがることになります。
その意味では、本書は、「市場の倫理側から見た、統治の倫理への糾弾」
という文脈で書かれており、
そういう意味では、言葉が荒れるのもいたしかたないのかもしれません。
つまり、たとえば江戸時代で言うならば、
市場の倫理とは田沼意次であり、統治の倫理とは松平定信となるわけです。
江戸時代は、統治の倫理が優先されており、
その理由は、朱子学の影響力が大きかったせいだということでした。
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さらに、最後の数章で、渋沢栄一が取り上げられ、
渋沢が、統治の倫理から市場の倫理へとパラダイム転換させたものとして、
あの有名な「論語と算盤」があるのだ、という話につながっていきます。
わたしはこの「論語と算盤」を読んでいないので、
詳しい話は分かりませんが
(しかもなぜか本書では、「論語と算盤」は読まなくてもいいと書かれていますが)
渋沢がこのあたりの倫理観について、
大きく世の中に影響を与えたのは、そうなのかもなぁ、と思いました。
だからこそ、今度1万円札になるのでしょう。
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それから本書では、中国に渋沢栄一に相当するひとがいなかったことが指摘されています。
確かに、中国では統治の倫理の中で、資本主義的な部分を取り入れているという
不思議な構造になっており、
果たしてこれがうまくいくのかどうか、よく分かりません。
本書の全部を信じることができるのかどうか、
歴史にうとい私には分かりませんでしたが、
読み物としてはとても面白かったですし、
時事ネタも入っているので、面白いのは間違いないと思います。
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