高橋雅紀著「分水嶺の謎」を読みました。
本書は、
- ブラタモリにも出演経験のある地質学者が、
- 9日間かけて本州の半分ほどの分水嶺を詳細に検証していくことで、
- 地形学会の定説を覆す新しい仮説を発見する本です。
本書は、まず背景として、地形学における「河川争奪説」というものが出てきます。
この説は、wikipediaにも記事があるほどなので、知っている人には常識的な内容なのかもしれません。
わたしは今回初めて知りましたが、本書の中でも解説されているため、事前知識が無くても、問題なく読みすすめられました。
本書では、この河川争奪が起こったとされる地形(谷中分水界)について、本当に起こったのか? 何か不自然なところはないか? が、明らかにされていきます。
とはいえ、本書の冒頭から、著者の自説が披露されるわけではありません。
ここが、本書の特徴的な部分だと思います。
本書は、2章構成となっています。
第1章では、国土地理院地図を使って、本州西側の分水嶺を、山や谷をひとつずつ追いながら、詳細にその地形を検証していきます。
第1章の文章を追っていく中で、分水嶺上にある谷中分水界の特徴が、少しずつ明らかになっていきます。
地形学での一般論として、谷中分水界は、河川争奪の結果現れる地形だと言われているそうです。
しかしながら、第1章でひとつずつ詳細に見ていった結果、著者は、河川争奪は起こらない(起こるとしてもとても確率が低く、これだけたくさん発見される谷中分水界の主要な要因とは考えられない)ことを確信するようになるのです。
では、どうして谷中分水界に見られるような、特徴的な地形が生まれるようになったのか?
それは、本書を読んでいただけたらと思いますが、第2章で明らかにされる著者の仮説は、何万年もの時空を越えた、壮大なスケールの陸と海のせめぎあいによるものとして表現されることになります。
もちろん、定説が覆ることはあるでしょうし、逆に、覆ったかと思いきや、実は新説に穴があったということも、ありうると思います。
そもそも、著者は地質学者であって、地形学者ではないので、いわば門外漢による仮説です。
本書の仮説が正しいのかどうか、わたしには分かりません。
これから、地形学会の学者さんたちによる検証がなされるでしょう。
しかし、この仮説が、結果的に間違っていたとしても、本書のおもしろさは、大きく損なわれることはないと思います。
なぜなら、本書が、第1章の検証のうえで、第2章で考えられる仮説の発見をする、という構成になっているからです。
定説から検証、新たな仮説、という一巡を、学者の寄り道なども含めて、すべて書き起こしているからこそ、発見のおもしろさや喜びが、ストレートに伝わってくるわけです。
いわば、本書を通じて、新しい仮説を立てる際の追体験ができるような本になっているわけです。
とてもおもしろい本でしたので、ぜひ読んでみてください。