【読書】 ベンゼン環をつなぐ、ただそれだけをひたすら解説する本

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諸藤達也著「文系でも3時間でわかる 超有機化学入門」を読みました。



本書は、

  • もと花王の研究者で、今は大学の助教であり、化学YouTuberである著者が、
  • ベンゼン環をうまくつなぐこと(カップリング)の120年間の歴史を
  • ノーベル賞や大学での研究などにも触れながら解説する本です。

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ベンゼン環(六角形のやつ)なんて、
学生時代以来、久しぶりに見ましたが、
本書では、このベンゼンどうしをくっつける方法を考えます。

このくっつける作業を、カップリングというようです。

構造式では、ただ線でつなぐだけですが、
実際には高温に熱したり、空気に触れないようにしたりと、
さまざまな工夫をしながら、カップリングの方法が模索されました。

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特に、異なるベンゼン環どうしをつなぐ方法はクロスカップリングと呼ばれ、
それらの功績は、2010年にノーベル賞を受賞するに至りました。

しかし、ノーベル賞に選ばれるのは、存命の3人までです。
3人に漏れた研究者の中にも、さまざまな素晴らしい業績があることが、
本書では解説されていきます。

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本書は、ひとつのテーマを通時的に扱う本であり、
その分、軸がぶれずに読みやすかったです。

以前読んだ、左巻さんの本に比べれば、
わたしは本書の方が面白いし、
化学の入門書としては適切だと思いました。

本書は、雑学がたくさん入っている本ではありませんが、
その分、研究者たちが何を考えて、何を改善してきたのか、
また、どのような研究室の雰囲気でそれらが行われたのか、
やさしく紹介されているからです。

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本書の良いところは、写真が多用されていることです。

人物が出てくれば、その人の肖像写真が示され、
実験内容が出てくれば、その実験風景の写真が示されます。

また、触媒などが擬人化され、
何と何がくっついて、その際にどのような反応が起こっているのか、
イメージしやすくなっていると思いました。

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やや気になったのは、
フリッツ・ウルマンだけが、やたらとキャラクターが誇張されていることです。

ウルマン「俺がビアリール世界一ぃぃいい!!

などと叫ぶ場面が、本書にはあるのですが、
その後紹介される他の研究者(鈴木章とか、宮浦憲夫とか)には、
このような誇張が無いので、
ウルマンだけが突出して記憶に残ります。

まあ、最初にカップリングに成功した人だし、
もう亡くなってから時間が経っているので、
誇張しても良いという判断だったのでしょうか。

誇張するならするで、研究者それぞれに個性を持たせてほしかったなと思いました。

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本書は、化学に興味を持つきっかけとして、とても面白い本だと思いました。
わたしも、学生時代に本書を読んでいたら、
志望大学を化学系にしていたかもしれません。

有機化学にとっつきにくさを抱えている学生さんや、
社会人になって、知識欲が出てきた文系の方などに、おすすめです。

ぜひ読んでみてください。