【読書】 五島慶太が強盗と呼ばれていた時代の東急

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猪瀬直樹著「土地の神話」を読みました。

土地の神話 (小学館文庫)
猪瀬直樹
小学館
2013-04-05



本書は、

  • 作家で、のちに都知事になる著者が、
  • 東急グループの五島慶太を中心に
  • 鉄道と不動産業の歴史を追った本です。

文庫本あとがきを書いたのが、ちょうど都知事時代だったようです。

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本書は、だいたい大正から戦後くらいまでの歴史を描いています。

ただし、いわゆる歴史書の記述ではなく、読みやすいストーリーがたくさん盛り込まれた本です。
小説家らしい書きぶりで、伏線やその回収がたくさん入っています。

古い時代の話ではありますが、内容としては、

  • 贈収賄事件や
  • 官僚の天下り、
  • 会社の乗っ取り

などなど。

人間はむかしから、同じようなことが繰り返しているのだなぁとしみじみ思いました。

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本書は3章構成です。
第1章が、渋沢秀雄(1万円札の渋沢栄一の息子)が田園都市をつくる話。
第2章が、五島慶太が田園都市株式会社をもとに東急グループを作り上げる話。
第3章が、イギリスのもともとの田園都市と、日本の田園都市の違い。

本書の中心となるのは、第2章です。

五島慶太は、遅咲きの官僚から民間鉄道会社に天下りします。
その後、次々と企業買収を繰り返して手を広げていきます。
戦前には小田急さえ買収し、巨大な東急グループを作りあげます。
しかし戦後は、やや残念な晩年を迎えることになります。

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たしかに、東急線沿いは大学が多いなぁと思っていましたが、まさか五島慶太が絡んでいたとは知りませんでした。

とくに、東工大の大岡山キャンパスの贈収賄事件は面白かったです。

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本書では、田園都市という概念が重要なキーワードになります。
この言葉を最初に考えたのは、エベネザー・ハワードという人です。
ハワードの田園都市については、新訳が読みやすいのでぜひ読んでみてください。

しかし、田園都市の思想は、日本には根付きませんでした。
実例である田園調布の街並みも、渋沢秀雄の金持ちの道楽で終わってしまいます。

とはいえ、日本人がハワードの遺志を理解できなかっただけかと思いきや、レッチワースでさえ、さまざまな事件が起こります。
第3章では、そのあたりのことも触れられています。

人間が安住するためには、政治的、経済的な動きに対応しないといけなくなり、ちっとも簡単なことではありません。

渋沢秀雄のように、お金持ちの普請道楽で終わることが、ある意味幸せかもしれません。