誰かを通した欲望が生む個人と社会

働き方

ルーク・バージス著「欲望の見つけ方」を読みました。

原著のタイトルは、「WANTING The Power of Mimetic Desire in Everyday Life」です。
サブタイトルは日本語だと「日々の人生おける模倣する欲望の力」ぐらいの意味だと思います。

本書は、

  • アメリカの起業家が、
  • ルネ・ジラールの思想を参考に、
  • 「模倣の欲望」を考察しながら、社会や個人の人生を考える本です。

本書の構成は、大きく2つのパートに分かれます。

パート1が、模倣の欲望とは何なのか、それがどのように社会や個人に影響を与えているのか、という現状分析です。

パート1は、第1章から第4章まであります。

パート2は、パート1の分析を前提として、ではどのように個人は人生を歩めば良いのか、社会はどうなっていってほしいのか、といった著者なりの意見が提起されます。

パート2は、第5章から第8章まであります。

本書の末尾には、補足資料として、用語定義や、ジラールの著作紹介、動機付けパターン集などもあります。


そもそも、欲望とは何なのか?

有名なところでは、マズローの欲求階層があります。
食欲や性欲などの低次の欲求から、自己実現という高次の欲求まで、ピラミッド型になっているあれです。

しかし、本書の立場としては、高次の欲求は、すべて誰かからの模倣により始まるとされています。

新しい電化製品が欲しいと思うことも、誰かを好きになることも、政治的立場を表明することも、すべて、誰かの姿を見て、欲望し始めた、と考えるわけです。

この洞察は、鋭いと思いました。

豊臣秀吉や、徳川家康は、織田信長の姿を見なければ、天下統一しようと思わなかったかもしれません。

織田信長は、どうして天下統一しようと思ったのか、それも誰かのモデルがあったのかもしれません。


もしそのような、模倣による欲望の始まりを認めるとすれば、いろいろなことが説明できます。

本書で紹介されているのは、「スケープゴート」です。

どうして、スケープゴートが発生するのか、もっと卑近な例でいえば、どうして会社や学校でいじめが起こるのか、その仕組みを、模倣の欲望から解きほぐしてくれます。

スケープゴート・メカニズムの説明は、なかなか暗い話です。


一方、そのような模倣の欲望を自覚したとして、どうすればよいかも、本書では語られます。
パート2の部分です。

個人としてどう生きるかと、社会としてどうあるべきか、といったことが語られます。

まず、個人の生き方としては、よくある自己啓発本と同じ結論です。

人生全体を見据えた、長期的視野に立って、死んだときに悔いのない生き方をしよう、みたいなことです。

この部分は、それほど面白くありませんでした。

一方、社会におけるあり方については、最終章で少しだけ掘り下げられるのですが、この部分も掘り下げが足りない気がしました。

スケープゴート・メカニズムと、市場経済がその仕組みとして紹介されるのですが、その次に来るものは、あるのか無いのか、あるとすればどのようなものなのか、具体的なところは語られません。

この部分は、もう少し知りたいなと思いました。


もっと詳しく考えていくためには、ジラールの本を読んでいくことが良いのかもしれません。

本書でお勧めされているのは、まずは、法政大学出版局の「欲望の現象学」のようです。

学術書で、なかなか高い本なので、ちょっと躊躇してしまいますが、わたしもそのうち読んでみたいなと思っています。