【読書】 エビと日本人と、いまの日本

村井吉敬著「エビと日本人」読みました。

エビと日本人 (岩波新書)
村井 吉敬
岩波書店
1988-04-20


本書は、いわゆる「名著」です。
教養として、知っておくといい本だと思います。

内容としては、エビの生産から消費までを追ったルポタージュで、
日本と世界(特に、第三世界)との関係を可視化しようとしています。

著者が、エビ漁や養殖場を直に訪れ、現場から聞き取りをしているところが特徴です。

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本書が書かれたのは1980年代後半で、バブル絶頂のころです。
それが理由かは分かりませんが、
「資本主義的な現状を批判する」という文脈で書かれています。

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全体は、5章構成で、前半4章が現場での調査、第5章が考察です。
以下は、各章のタイトルです。

  1. エビを獲る人びと トロール漁の現場
  2. エビという生き物 生態・種類・獲られ方
  3. エビを育てる人びと 要職をインドネシア・台湾に見る
  4. エビを加工する人びと 調味料づくり・殻剥き・箱詰め
  5. エビを売る人、食べる人 この四半世紀に何が起きたか?

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第5章が、いちばん面白いです。
丸紅などの商社が輝いていた時代に、
それを批判的に書いている文章です。

当時はもちろん、「新自由主義」などの言葉はありませんが、
市場経済を中心に発想することに対して、(今から見ればややナイーブな)批判は、
素朴な力強さがあります。

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また、エビ論争というのは面白いなと思いました。

一九六八年一月二九日付『朝日新聞』社会面は「エビ天はぜいたくか 賃上げめぐって論争 日経連・・・生活が向上した証拠 総評・・・よく働くための源泉」との見出しの大きな記事を載せた。知る人ぞ知る「エビ論争」である。

という部分(pp.178-9)です。

エビの輸入が増えたことを背景にして、
以下のような論争が国会まで持ち込まれたそうです。

経営者「労働者がエビを食えるなら、もう賃金は十分上がっている」
労働者「労働者にもっとうまいものを食わせないと、日本は経済発展しない」

いつの世の中も変わらないなぁと思いますが、
当時は労働組合が機能していた時代でしょうから、
いまわたしたちが感じるよりも、もっと真剣だったのかもしれません。

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また、本書では、漁業の近代化される途上にあって、
日系企業がそれらに敗れていくところも描かれています。

台湾やインドネシアなどで働く人たちの働き方が載っていますが、
現地企業や欧米企業の合理化についていけず、日系企業が撤退していくわけです。

もう30年以上前の本ではありますが、
現代日本と地続きでつながっている世界であり、
いまも読んでみる価値のある名著ではないかと思います。

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