【読書】 「正論、正論、はい論破!」 … 相手を怒らせるだけで 何の生産性もなくない?

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須藤昌寛著「福祉現場で役立つ動機づけ面接入門」を読みました。

福祉現場で役立つ動機づけ面接入門
須藤昌寛
中央法規出版
2019-06-07



本書は、

  • 国際医療福祉大学の教授である著者が、
  • 「動機づけ面接」について、分かりやすく教えてくれる本です。

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タイトルに「福祉現場で」とある通り、
本書で取り上げられている事例は、児童福祉や高齢者福祉の具体例です。

たとえば、

  • 子どもを特別支援のクラスに入れるかどうかとか、
  • デイサービスを利用するかどうかとか、

そういった例です。

しかし、動機づけ面接そのものは、福祉だけでなく、
営業など、幅広い仕事に応用できそうだと思いました。

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そもそも、動機づけ面接とは何でしょうか。

あんまりなじみのない言葉だと思います。
わたしも、以前何かのビジネス書で読んでいて、たまたま知りました。

想像しやすいのは、たばこ中毒の患者と、その医者の会話です。

医者は、たばこを辞めさせたいと思っています。
一方、患者は、たばこを辞めた方が良いと思ってはいるけど、辞められない状態です。

このとき、医者が
「たばこは、今すぐ、一切やめなさい、辞めないやつはバカだ」
などと言ってきたら、患者は医者を信頼しないでしょう。

結果的に、患者はたばこを辞められないまま、となってしまいます。
患者の健康は害され、医者にとっても失敗ということになります。

じゃあ、医者は患者に、どう伝えれば良かったのか?
患者が、医者の提案を聞きやすくなるようにするために、
医者がどんな話し方をすれば良いのか。

その方法論が、「動機づけ面接」です。

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「動機づけ面接」は、現在では、医者と患者の関係だけでなく、
さまざまな場面で応用されているようです。

その応用例のひとつが、本書の福祉現場でしょうし、
そのほか、営業や商談でも使えそうです。

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動機づけ面接の具体的なテクニックや心構えは、本書を読んでいただくとして、
ここでは、最初の失敗例を引用しておきます。(pp.3-4)

以下は、吉田さんという高齢者と、
ケアマネージャー(福祉サービスを勧めるひと)の会話です。

ケアマネージャーは、吉田さんの娘からの依頼で、
吉田さんに福祉サービスを使ってほしいと考えています。

  • ケ:「吉田さん、最近の調子はどうですか?」
  • 吉:「まあまあだよ。特に悪いこともないかな」
  • ケ:「買い物とか掃除なんかはどうですか。一人暮らしで大変でしょう」
  • 吉:「メシはコンビニで買ってるし、掃除はあまりしていないけど大丈夫だよ」
  • ケ:「コンビニのお弁当ですか? 栄養の偏りが心配ですね」
  • 吉:「歳をとると食欲がなくなるんだ」
  • ケ:「掃除だってときどきはしたほうがよいですよ。モノが散らかっていると転倒の危険もありますし。転倒して骨折したらまた入院ですよ」
  • 吉:「大丈夫だよ。自分でも気をつけているし」
  • ケ:「どんなふうに気をつけていらっしゃるんですか?」
  • 吉:「・・・」
  • ケ:「娘さんも心配されていらっしゃいますよ。このまま一人で暮らしていると何が起こるか分かりませんし。どうですか、デイサービスやホームヘルパーとか、福祉サービスを利用してみませんか?」
  • 吉:「・・・」

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これを見ても分かるとおり、相手を「論破」するような会話では、
やった方が良いことでも、それをうながすことが難しくなります。

特に、ネット上の会話は、この種の「論破」が多い気がします。
しかし、「相手の間違い」を「わたしが正す」というのは、
必ずしも良い結果を生みません。

本書でも、「間違い指摘反射」と呼ばれ、避けるべき対応とされています。

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動機づけ面接という手法においては、
相手が「両価性」という状態にあると仮定します。

漢字で書くと難しく感じますが、
簡単に言えば「わかっちゃいるけどやめられない」という状態です。

  • お酒辞めないといけないのに、やめられない。
  • 勉強したほうがいいのに、始められない。
  • ダイエットしたいのに、続かない。
  • 片づけしたいのに、ほったらかし。

ぜんぶ、両価性です。
英語で言えば、アンビバレンス(Ambivalence)です。

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動機づけ面接は、
かつて流行した、黒い心理学や、メンタリズムのように、
相手を、こちらの思い通りに誘導するような、テクニックではありません。

しかし、相手を上手に誘導し、相手にとって最良の選択肢を選ばせるというのは、
仕事上、多くの場面で遭遇することだと思います。

本書は、具体例としては福祉現場しか掲載されていませんが、
このテクニックをビジネスに応用するのは、決して難しくないと思います。

気になった方は、ぜひ読んでみてください。

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